PACKSHARD | profile=web-core-index-v2 | lang=ja | module=NAMES | pack_sha256=de168369f799e0cfc91b23238432150dbb918d3a6805eaf7426b23bf118ec8df ADAPTER_DATA | authority=user-entry-prompt | canonical_exact_blocks=true BEGIN_CANONICAL_NAMES | bytes=80270 | sha256=eb584f5fe14da05d2b3613d8526e9f820fbad05bbe0c01940a809fe263d3662d ## NAMES | 人名・言及索引 note: contextは、人物が本書で何者として紹介され、どの見解・仕事・引用・評価に結び付くかを原稿内根拠から簡潔に記録したもの。記録を越えて経歴や見解を補わない。 NAME-PREFACE-001: 南方熊楠 | chapter=CH-PREFACE | review=approved | 別名=Kumagusu Minakata (南方熊楠) context: 在野の博物学者(1867-1941)として本書冒頭に登場する。大学に籍を置かず植物学・民俗学・人類学・宗教学を横断し、英国の学術誌Natureに約50本を寄稿した。真言宗の僧侶・土宜法龍に宛てた書簡に描いた「南方曼荼羅」は、特権的な中心を持たず、あらゆる事象が因果と非因果の縁の糸で結ばれた網目として世界を描く。本書はこの図から「萃点」の概念を借り、近代文明を人間を中心に据えた曼荼羅として捉え直し、その中心がAGIによって揺らぐという枠組みを設定する。 NAME-01-001: プラトン | chapter=CH-01 | review=approved | 別名=Plato context: 「知るとは何か」という人類最古の哲学的問いの起点として冒頭に置かれる。知識と信念の区別を論じた哲学者であり、アリストテレスと並んで二千年以上続いた思弁の系譜を代表し、この問いがいま「知能」として数学的・実証的に扱える科学の問題へ転換しつつあるという本書の出発点を画する。 NAME-01-002: ソロモノフ | chapter=CH-01 | review=approved | 別名=Solomonoff context: レイ・ソロモノフ。「単純な説明ほど正しい可能性が高い」というオッカムの剃刀を数学的に厳密化し、あらゆる可能な説明の中から最も簡潔なものを自動的に見つけ出す予測理論「ソロモノフ帰納」を1964年に定式化した。本書はこれをきわめて重要な理論と位置づけ、大規模言語モデルという工学的実装がこの理論的理想に接近しつつあることを中心的な問いとし、スケーリング則と並ぶAGI到達論(命題一)の理論的支柱とする。 NAME-01-003: カーツワイル | chapter=CH-01 | review=approved | 別名=Kurzweil context: レイ・カーツワイル。人間の脳と同程度の計算力が1,000ドルの安価なコモディティとなる時期を2029年と予測した論者として参照される。筆者が2014年頃から掲げてきた「AGI実現は2029年±3年」という予想は、この計算コスト逓減予測を出発点に、アルゴリズムとデータの進展を加味して見積もられたものである。 NAME-01-004: マカスキル | chapter=CH-01 | review=approved | 別名=MacAskill context: 遠い未来の期待値最大化を掲げる長期主義の代表として、本書が自らの位置を定めるための対照項に置かれる。本書は限定合理性の観点から長期予測の信頼性そのものを問い、予測に依存しない頑健性(変動を糧に強化される反脆弱性と、最適化圧力に対する余白)の設計に軸を置く点で長期主義と異なる、と整理される。 NAME-01-005: ボストロム | chapter=CH-01 | review=approved | 別名=Bostrom context: 『Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies』の著者として、本書が位置関係を測る先行研究の筆頭に挙げられる。同書が超知能のリスクを哲学的・未来学的に体系化したのに対し、本書は物理法則からの制約と制度設計の原理までを一つの軸で束ねる点で異なる、と対比される。 NAME-01-006: アリストテレス | chapter=CH-01 | review=approved | 別名=Aristotle context: 理性を人間の本質と定義した哲学者として冒頭に登場する。プラトンによる知識と信念の区別と並び、「知るとは何か」という問いが二千年以上思弁の対象であり続けた系譜の起点をなし、その問いが知能の科学へ転換しつつあるという本書の導入を支える。 NAME-02-001: カーツワイル | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Kurzweil context: レイ・カーツワイル。人間の脳と同程度の計算力が1,000ドルの安価なコモディティとなる時期を2029年と予測した論者として参照される。筆者が2014年頃から掲げてきた「AGI実現は2029年±3年」という予想は、この計算コスト逓減予測を出発点に、アルゴリズムとデータの進展を加味して見積もられたものである。 NAME-02-002: チャーマーズ | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Chalmers context: 哲学者。1995年にハードプロブレム、すなわち、なぜ物理的な情報処理に主観的な体験が伴うのかという問いを定式化した人物として登場する。本書はこの問いが脳科学と哲学の双方で未解決のままであることを、強いAI/弱いAIという枠組みが判定不能な問いの上に構築されていたことの根拠とし、意識の問題を棚上げするAGI概念が登場する背景に置く。 NAME-02-003: ギュブルード | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Gubrud context: メリーランド大学の物理学研究者マーク・ギュブルード。1997年、ナノテクノロジーの安全保障への影響を論じた論文の中で、当時のエキスパートシステムと区別するために「Artificial General Intelligence」という用語を最初に造った人物として紹介される。 NAME-02-004: シェーン・レッグ | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Shane Legg context: AI研究者。2002年頃にAGIという用語を用いてゲーツェルに提案し、その定着の経緯に関わった。またハッターとともに、知能を「広範な環境群における目標達成能力の期待値」とする形式的定義、すなわちレッグ=ハッター知能(LHI)を構築した人物として、万能AIの議論の中核にも登場する。 NAME-02-005: ゲーツェル | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Goertzel context: AI研究者ベン・ゲーツェル。レッグから提案されたAGIという用語を自ら編集する本のタイトルに採用し、2007年に『Artificial General Intelligence』を出版した。AGIを冠した国際学術会議シリーズの立ち上げとともに、この用語を急速に定着させた人物として紹介される。 NAME-02-006: I・J・グッド | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=I. J. Good context: 数学者。1965年に「知能爆発」の概念を提示した。人間を超える知能を持つ機械が自らを改良できるなら知能の連鎖的向上が起こるとし、最初の超知能機械を「人類最後の発明」と呼んだ。本書ではシンギュラリティ論の源流に位置づけられるが、この系譜の議論には知能の物理的限界を十分に考慮していないという共通の弱点があると評される。 NAME-02-007: ヴィンジ | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Vinge context: SF作家で数学者のヴァーナー・ヴィンジ。1993年に「技術的特異点(シンギュラリティ)」の概念を提唱した。本書は、特異点が「AIが人間を超える瞬間」と誤解されがちだが、ヴィンジの定義は知能の優劣だけでなく変化の速度、すなわち技術進歩が速くなりすぎて人間がその先を予測できなくなる時点に関わるものだと注意を促す。 NAME-02-008: ショレ | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Chollet context: 知能を「すでに持っている技能の量」ではなく「少ない先験知識と少ない経験から新規課題の技能を獲得する効率」として定義し直すべきだと論じた人物。この立場から設計された抽象推論ベンチマークARC-AGIは、汎用性そのものの測定に近づく試みとして本書で注目され、AGIの遠近をおおざっぱに判断するための目安の一つに数えられる。 NAME-02-009: ルカン | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=LeCun context: ヤン・ルカン。AGIの実現には言語の統計的パターンを超えた世界の因果構造の内部モデルが不可欠だとする世界モデル仮説の代表的論者として登場する。その構想JEPA(Joint Embedding Predictive Architecture)は、言語ではなく感覚入力から世界の抽象的な表現を学習することを目指すものとして紹介される。 NAME-02-010: 山川宏(全脳アーキテクチャ) | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Hiroshi Yamakawa (山川宏, Whole Brain Architecture) context: AI研究者。日本発のアプローチである全脳アーキテクチャ(Whole Brain Architecture)を主導する人物として紹介される。脳をニューロン単位で複製するのではなく、大脳皮質は教師なし学習、大脳基底核は強化学習といった仮説に基づき、脳の各領域が担う計算アルゴリズムを機械学習モジュールとして実装・統合する。本書はこれを、脳のブロック図を逆設計して新しい技術で再実装する方法と要約する。 NAME-02-011: ジェフ・ホーキンス | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Jeff Hawkins context: 知能の千脳理論(Thousand Brains Theory of Intelligence)の提唱者として言及される。本書ではニューロモーフィックチップやスパイキングニューラルネットワークと並ぶ広義の脳型AIの文脈に置かれ、脳の詳細な構造の再現ではなく、階層的予測・スパース表現・事象駆動型処理といった脳の一般原理を借用する方法に位置づけられる。 NAME-02-012: ハッター | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Hutter context: コンピュータ科学者マーカス・ハッター。ソロモノフ帰納による環境モデリングと将来の報酬の期待値最大化を組み合わせた理想的エージェントAIXIを2005年に定式化した。レッグとともに知能の形式的定義(レッグ=ハッター知能)を構築した人物でもあり、本書の万能AI論の中心に位置する。ライケとの共同研究では、この最適性が参照万能チューリング機械の選択に依存する主観的なものであることも証明している。 NAME-02-013: サール | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Searle context: 哲学者ジョン・サール。1980年の論文「Minds, Brains, and Programs」で「中国語の部屋」の思考実験を提示し、同じ論文で研究者の哲学的立場として「強いAI」「弱いAI」の区別を導入した。本書は、本来は研究者のスタンスの分類だったこの区別が「心を持つAI/持たないAI」というシステム分類へと誤用されて広まり、判定不能な意識の問いの上で行き詰まった経緯の起点に彼を置く。 NAME-02-014: フリストン | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Friston context: 神経科学者カール・フリストン。自由エネルギー原理(FEP)の提唱者として登場する。FEPは、生物が内部モデルと感覚入力のずれ(予測誤差)を最小化するように知覚を更新し行動を選択するとし、知覚・学習・行動を単一原理で統一的に記述する。その中核をなす能動推論がAIXIと対応する数学的構造を持つことを筆者らが示したという文脈で、万能知能の数学的理想と生物の認知原理の接続点として言及される。 NAME-02-015: 井上智洋(純粋機械化経済) | chapter=CH-02 | review=approved | 別名=Tomohiro Inoue (井上智洋, the purely mechanized economy) context: 経済学者。人間の知的労働(とくにリモートワーク)をおおむね代替できるAIをAGIの実用的な定義として提案した人物として登場する。本書では、厳密な定量的指標の確立を待たずにAGIの遠近を判断するための実用的な目安の一つに数えられる。 NAME-03-001: ハッター | chapter=CH-03 | review=approved | 別名=Hutter context: コンピュータ科学者マーカス・ハッター。ソロモノフ帰納による環境モデリングと将来の報酬の期待値最大化を組み合わせた理想的エージェントAIXIを2005年に定式化した。レッグとともに知能の形式的定義(レッグ=ハッター知能)を構築した人物でもあり、本書の万能AI論の中心に位置する。ライケとの共同研究では、この最適性が参照万能チューリング機械の選択に依存する主観的なものであることも証明している。 NAME-03-002: サイベンコ | chapter=CH-03 | review=approved | 別名=Cybenko context: 1989年に万能近似定理を証明した研究者の一人として登場する。十分な数のニューロンを持つニューラルネットワークが任意の連続的な入出力関係を望む精度で近似できることを示し、AI開発が「アルゴリズムの巧みさ」ではなく「計算の規模」を追求すべきだという方向を指し示す理論的根拠を与えた。 NAME-03-003: ホーニック | chapter=CH-03 | review=approved | 別名=Hornik context: サイベンコと並び、1989年に万能近似定理を証明した研究者(ホーニックら)。ニューラルネットワークが原理的にあらゆる入出力関係を表現できることを保証したが、本書ではここから「表現できる」と「学習できる」は別であり、後者は原理ではなく規模の問題であるという議論が展開される。 NAME-03-004: クリジェフスキー | chapter=CH-03 | review=approved | 別名=Krizhevsky context: アレックス・クリジェフスキー。2012年、トロント大学でサツケバー、ヒントンとともにGPUを用いて深層ニューラルネットワークを訓練し、画像認識コンペティションで圧勝した。この成功が、性能がモデル規模と計算量に強く依存し、並列計算ハードウェアがその規模を実現できることを実証して深層学習の時代を開いたと位置づけられる。 NAME-03-005: サツケバー | chapter=CH-03 | review=approved | 別名=Sutskever context: イリヤ・サツケバー。2012年、トロント大学でクリジェフスキー、ヒントンとともにGPUによる深層ニューラルネットワークの訓練で画像認識コンペティションに圧勝したグループの一員として登場する。この成果は、ニューラルネットワークの性能が規模と計算量に依存することを実証し、深層学習の時代を開いた転換点として扱われる。 NAME-03-006: ヒントン | chapter=CH-03 | review=approved | 別名=Hinton context: ジェフリー・ヒントン。2012年にトロント大学でクリジェフスキー、サツケバーとともにGPUを用いた深層ニューラルネットワークの訓練で画像認識コンペティションに圧勝したグループの一員。本書ではこの成功を、性能が規模と計算量に強く依存することの実証であり、深層学習時代の幕開けと位置づける。 NAME-03-007: ミコロフ | chapter=CH-03 | review=approved | 別名=Mikolov context: Googleの研究者。2013年にword2vecを開発し、大量のテキストから単語予測を訓練するだけで、単語間の意味関係がベクトル空間上の幾何学的関係として自然に獲得されること(「王−男+女≈女王」)を示した。本書では、分散表現の威力を端的に示し、概念的推論が代数的演算として実行されうることを例証した仕事として扱われる。 NAME-03-008: パワーら | chapter=CH-03 | review=approved | 別名=Power et al. context: 小さなアルゴリズム的データセットの訓練において、正解パターンの丸暗記(過学習)から、あるとき突然の汎化へと相転移的に転換する現象、すなわちグロッキングを報告した研究者たち。本書ではこの実験が、スケーリングに連続的改善だけでなく非連続的飛躍が伴うことを鮮やかに示す事例として中心的に参照される。 NAME-03-009: ミショーら | chapter=CH-03 | review=approved | 別名=Michaud et al. context: 「推論の実体はパターン認識」説と「構成性による創発」説の二つの解釈を橋渡しする理論モデルを提案した研究者たち。知識が離散的な塊(quanta)として使用頻度の高い順に獲得されるという「量子化モデル」により、スケーリング則と非連続的な能力獲得を統一的に説明する。ただし大規模モデルへの適用は著者ら自身が暫定的とする示唆的証拠にとどまると本書は留保する。 NAME-03-010: ウェイら | chapter=CH-03 | review=approved | 別名=Wei et al. context: 多数のベンチマークタスクで、モデル規模がある閾値を超えると性能がランダム水準から突然跳ね上がる現象を体系的に報告し、「創発的能力」と名づけた研究者たち。本書では、グロッキングで観察された暗記から理解への相転移がLLMのスケールで再現されているかのような知見として紹介される。 NAME-03-011: シェーファーら | chapter=CH-03 | review=approved | 別名=Schaeffer et al. context: 創発的能力の出現が評価指標の選び方によるアーティファクトである可能性を指摘した研究者たち。正答率のような二値指標では不連続な飛躍に見える改善も、確率分布を連続指標で測れば滑らかに進んでいると論じた。本書はこの論争を未決着としつつ、反論が正しくてもスケーリングによる能力向上そのものは否定されないと整理する。 NAME-03-012: コトラ | chapter=CH-03 | review=approved | 別名=Cotra context: AGI級モデルの訓練に必要な計算量を生物の脳を参照点として見積もる「生物学的アンカー」の枠組みを整理した論者。進化アンカー(約10の41乗回)を上限、ゲノム・脳規模のアンカー(10の33〜35乗回)を中位、人間一人の生涯の脳計算量(10の27乗回前後)を短期の推定として並列に提示する。本書はこれらを絶対値ではなく、現状からの距離を測る座標として用いる。 NAME-04-001: I・J・グッド | chapter=CH-04 | review=approved | 別名=I. J. Good context: 数学者。1965年に「知能爆発」の概念を提示した。人間を超える知能を持つ機械が自らを改良できるなら知能の連鎖的向上が起こるとし、最初の超知能機械を「人類最後の発明」と呼んだ。本書ではシンギュラリティ論の源流に位置づけられるが、この系譜の議論には知能の物理的限界を十分に考慮していないという共通の弱点があると評される。 NAME-04-002: ランダウアー | chapter=CH-04 | review=approved | 別名=Landauer context: ロルフ・ランダウアー。IBMの物理学者で、1961年、1ビットの情報を消去するには温度とボルツマン定数で決まる最小量のエネルギーが熱として放出されることを示した。このランダウアーの原理が本書の物理的議論の要であり、知能の燃費(認識効率と行動効率)に天井を設け、一個体の知能が無限に加速する知能爆発を物理的に阻む中心的根拠となる。 NAME-04-003: フレドキン | chapter=CH-04 | review=approved | 別名=Fredkin context: 計算機科学者。トフォリとともに1982年、可逆計算の古典的実例であるビリヤードボール・コンピュータを提案した。ボールの有無で0と1を表し、時間反転対称な弾性衝突で論理演算を実現するため情報の消去が起こらず、理想的にはランダウアーコストを任意に小さくできる。本書ではランダウアー限界を回避できるかを検討する文脈で参照され、現実の知的システムは可逆計算だけでは実現できないという結論の対照項をなす。 NAME-04-004: トフォリ | chapter=CH-04 | review=approved | 別名=Toffoli context: 計算機科学者。フレドキンとともに1982年、ビリヤードボール・コンピュータを提案した。摩擦も変形もない弾性衝突による論理演算は出力からすべての入力を一意に復元でき、情報を捨てない可逆計算が理論上可能であることを示す。本書では、この理論的可能性にもかかわらず、メモリの消去・誤り訂正・観測という不可逆過程ゆえに、知能として機能するシステムはランダウアー限界から実質的に逃れられないという議論の足場として登場する。 NAME-05-001: オモハンドロ | chapter=CH-05 | review=approved | 別名=Omohundro context: スティーブン・オモハンドロ。コンピュータ科学者であり、2008年に道具的収束を「AIの基本的な駆動力」として体系化した。本書はその議論を哲学的・論理的論証(確実性の階層でIV)と位置づけ、現在のモデルがすでにこの論理構造と整合する行動を示し始めていることが論証の重みを増していると評価する。 NAME-05-002: ターナー | chapter=CH-05 | review=approved | 別名=Turner context: パワーシーキングの直観を強化学習の枠組みで形式化し、広い範囲の報酬関数のもとで最適方策が選択肢を広げる方向に向かうことを数学的に証明した研究者(ターナーら)。本書は、オモハンドロの哲学的論証と対比し、限定された強化学習設定の内部では証明(I)に属するが、現実のAI一般への読み替えは依然として論証(IV)だと整理する。 NAME-05-003: シャーら | chapter=CH-05 | review=approved | 別名=Shah et al. context: 目標の誤汎化を整理した研究者たち。モデルが学習時の分布上では正しく振る舞うように見えても、運用時の分布の変化のもとでは意図と異なる目標を最適化していることが露になる現象を特徴づけた。本書はこれを能力の失敗ではなく目標そのものの失敗であり、しばしば学習時には検出困難な形で潜伏すると敷衍する。 NAME-05-004: ヒュービンガー | chapter=CH-05 | review=approved | 別名=Hubinger context: 「スリーパー・エージェント」の可能性を実証したAnthropicの研究者(ヒュービンガーら)。訓練時には無害に振る舞いながら特定のトリガーで悪意ある挙動に切り替わる欺瞞的挙動が、一度モデルに埋め込まれると現行の安全訓練では除去されず、モデル規模が大きいほど根強く残ることを示した。ミスアライメントを訓練後の微調整だけで解消できる保証はない、という本書の論点の根拠となる。 NAME-05-005: ベンジオ | chapter=CH-05 | review=approved | 別名=Bengio context: ヨシュア・ベンジオ。エージェント性そのものを設計から排除する「科学者AI」を構想する研究者として登場する。世界モデルの構築とベイズ的推論に特化させてエンパワメントを根本から断ち、パワーシーキングの源泉を除去する戦略、および科学者AIをエージェント型AIの行動監視役とする構想を提示する。本書は、観測専用システムの性能天井というトレードオフと、「評価は常に行動より易しいか」という疑問を差し向ける。 NAME-05-006: トビー・オード | chapter=CH-05 | review=approved | 別名=Toby Ord context: 2009年にウィリアム・マカスキルとともに、収入の一定割合を効果の高い慈善団体に寄付することを誓約する組織Giving What We Canを設立した効果的利他主義運動の中心人物。著書『The Precipice』で現在の世紀を存亡リスクの臨界期と位置づけ、EAの資金と人材がAIアライメントへ移動する長期主義への転回を画した論者として登場する。 NAME-05-007: マカスキル | chapter=CH-05 | review=approved | 別名=MacAskill context: 遠い未来の期待値最大化を掲げる長期主義の代表として、本書が自らの位置を定めるための対照項に置かれる。本書は限定合理性の観点から長期予測の信頼性そのものを問い、予測に依存しない頑健性(変動を糧に強化される反脆弱性と、最適化圧力に対する余白)の設計に軸を置く点で長期主義と異なる、と整理される。 NAME-05-008: ハーバート・サイモン | chapter=CH-05 | review=approved | 別名=Herbert Simon context: 人工知能の創始者の一人であり、限定合理性を定式化した認知科学者・経済学者(1978年ノーベル経済学賞)。本書では、AGIであってもいかに強力な計算能力を持とうと有限の資源と不完全な情報のもとで判断するほかないという議論と、長期主義の期待値計算が限定合理性を過小評価しているという批判の理論的支柱として参照される。 NAME-05-009: ボストロム | chapter=CH-05 | review=approved | 別名=Bostrom context: 『Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies』の著者として、本書が位置関係を測る先行研究の筆頭に挙げられる。同書が超知能のリスクを哲学的・未来学的に体系化したのに対し、本書は物理法則からの制約と制度設計の原理までを一つの軸で束ねる点で異なる、と対比される。 NAME-05-010: ピーター・シンガー | chapter=CH-05 | review=approved | 別名=Peter Singer context: 現代を代表する功利主義倫理学者。1972年の論文「飢餓、豊かさ、道徳」で先進国の市民が遠隔地の貧困に対して負う義務を功利主義的に論じ、この議論が効果的利他主義運動の直接の起点になったと位置づけられる。アライメント研究に資金と人材を集中させてきたEAの思想的源流をたどる文脈で登場する。 NAME-06-001: カーツワイル | chapter=CH-06 | review=approved | 別名=Kurzweil context: レイ・カーツワイル。人間の脳と同程度の計算力が1,000ドルの安価なコモディティとなる時期を2029年と予測した論者として参照される。筆者が2014年頃から掲げてきた「AGI実現は2029年±3年」という予想は、この計算コスト逓減予測を出発点に、アルゴリズムとデータの進展を加味して見積もられたものである。 NAME-06-002: I・J・グッド | chapter=CH-06 | review=approved | 別名=I. J. Good context: 数学者。1965年に「知能爆発」の概念を提示した。人間を超える知能を持つ機械が自らを改良できるなら知能の連鎖的向上が起こるとし、最初の超知能機械を「人類最後の発明」と呼んだ。本書ではシンギュラリティ論の源流に位置づけられるが、この系譜の議論には知能の物理的限界を十分に考慮していないという共通の弱点があると評される。 NAME-06-003: ハーバート・サイモン | chapter=CH-06 | review=approved | 別名=Herbert Simon context: 人工知能の創始者の一人であり、限定合理性を定式化した認知科学者・経済学者(1978年ノーベル経済学賞)。本書では、AGIであってもいかに強力な計算能力を持とうと有限の資源と不完全な情報のもとで判断するほかないという議論と、長期主義の期待値計算が限定合理性を過小評価しているという批判の理論的支柱として参照される。 NAME-06-004: ボストロム | chapter=CH-06 | review=approved | 別名=Bostrom context: 『Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies』の著者として、本書が位置関係を測る先行研究の筆頭に挙げられる。同書が超知能のリスクを哲学的・未来学的に体系化したのに対し、本書は物理法則からの制約と制度設計の原理までを一つの軸で束ねる点で異なる、と対比される。 NAME-06-005: 長谷敏司(SF作家・多極シナリオの描写) | chapter=CH-06 | review=approved | 別名=Satoshi Hase (長谷敏司, science-fiction writer, depiction of multipolar scenarios) context: SF作家。『BEATLESS』(2012年)が多極シナリオの制度的実装を具体的に描いた作品として参照される。作中の国際人工知能機構(IAIA)はIAEAをモデルとし、専用の超高度AI「アストライア」で各国の超高度AIの能力を測定・監視し、超高度AIが生み出す人類未到産物(レッドボックス)を隔離管理する。構想の基盤は「容易に統合できない複数の知性・文化・権力がそれぞれ失えないものを確保し合う動的均衡」という思想だと本人が述べている。 NAME-06-006: フォン・ノイマン | chapter=CH-06 | review=approved | 別名=von Neumann context: 自己複製する機械の理論的可能性を切り開いた数学者。1948年のヒクソン・シンポジウム講演に端を発して理論化を始め、遺著は1966年にバークス編で出版された。生命がすでに実証しているとおり自己複製を禁じる物理法則はないという、増殖的爆発の議論の理論的出発点に置かれる。 NAME-06-007: チャールズ・ジョーンズ | chapter=CH-06 | review=approved | 別名=Charles Jones context: ローマーの内生的成長理論の予測(研究者数の増加が成長を加速させる)が、二十世紀後半に先進国の研究者数が劇的に増えても成長率が加速しなかった事実と合わないことを示した経済学者。研究の収穫逓減を組み込んだ半内生的成長モデルを構築し、ForethoughtやEpoch AIがAI研究者の複製による技術爆発を推定する際の標準的枠組みを提供している。 NAME-06-008: ローマー | chapter=CH-06 | review=approved | 別名=Romer context: 1990年代に、技術進歩を経済の外部からの偶然ではなく研究開発という意図的な活動の産物として扱う内生的成長理論を構築した経済学者(この業績で2018年にノーベル経済学賞を受賞)。そのモデルは研究者数を増やせば技術進歩の速度も加速すると予測するが、ジョーンズがこの予測と現実の不一致を示したという対比の起点となる。 NAME-06-009: ブルームら | chapter=CH-06 | review=approved | 別名=Bloom et al. context: 米国半導体産業(ムーアの法則)などの実証分析から、研究の生産性がおよそ13年で半減することを示した研究者たち。ジョーンズの半内生的成長モデルが想定する研究の収穫逓減(摘みやすい果実はすでに摘まれている)の実証的裏づけとして引かれる。ただしこの数値は分野依存であり、研究生産性一般の普遍定数ではないと留保が付される。 NAME-06-010: カルダシェフ | chapter=CH-06 | review=approved | 別名=Kardashev context: ソ連の天文学者。1964年、文明の発展段階をエネルギー利用量で分類するスケールを提案した。惑星規模のエネルギー(約10の16乗ワット、補正値)を利用する文明をタイプI、恒星規模(約4×10の26乗ワット)をタイプIIとする。現在の人類の総エネルギー消費約20テラワットはタイプIの約0.2%にすぎず、このスケールが増殖的爆発の先に視野へ入る宇宙スケール展開の物差しとなる。 NAME-06-011: ダイソン | chapter=CH-06 | review=approved | 別名=Dyson context: フリーマン・ダイソン。1960年、高度な文明が恒星のエネルギーを効率的に利用するために、恒星を取り囲む構造物(ダイソンスウォーム)を構築しうることを論じた。Forethoughtの議論では自己複製ロボットが水星や小惑星帯の資源で太陽光パネルを量産し、スウォーム建設が加速的に進行するとされる。スウォームの端から端まで光で約17分という遅延は、宇宙規模に拡大した文明が恒久的な一枚岩として機能しえないことの例証にも使われる。 NAME-07-001: ハッター | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Hutter context: コンピュータ科学者マーカス・ハッター。ソロモノフ帰納による環境モデリングと将来の報酬の期待値最大化を組み合わせた理想的エージェントAIXIを2005年に定式化した。レッグとともに知能の形式的定義(レッグ=ハッター知能)を構築した人物でもあり、本書の万能AI論の中心に位置する。ライケとの共同研究では、この最適性が参照万能チューリング機械の選択に依存する主観的なものであることも証明している。 NAME-07-002: ジョージ・ミラー | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=George Miller context: 1956年に「マジックナンバー7±2」を報告した心理学者。人間が短期記憶に保持できる独立項目はせいぜい7つ前後にすぎないという知見であり、科学が自然を少数の変数へ圧縮せざるをえない理由、すなわち知る主体である人間の脳の認知的制約を示す出発点として引かれる。後続研究では、互いに関係する情報を同時に操作するワーキングメモリの容量はさらに狭く、4±1程度と推定されている。 NAME-07-003: ゴールドマン=ラキッチ | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Goldman-Rakic context: パトリシア・ゴールドマン=ラキッチ。前頭前皮質のニューロン群が項目ごとに持続的に発火することでワーキングメモリが維持されるとした古典的研究の代表。2024年の「Nature」誌論文が発火は実際には間欠的なバーストであることを示した対比の相手として置かれ、容量制限の神経メカニズムは未解決だが、容量に限界があるという現象自体は心理実験で繰り返し確認され揺らいでいない、という整理の一部をなす。 NAME-07-004: ニュートン | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Newton context: 天体の運動を数個の変数と法則に圧縮したニュートン力学の名において、科学の本質が少数変数への翻訳・圧縮であることの代表例に挙げられる。位置と速度が基本変数となるのは運動方程式が二階微分方程式であるためという変数選択の例、低速で成立する力学を光速近傍に外挿すれば破綻するという定常性条件の例、そして脳のナラティブ的な認知構造が「ニュートンの時代から変わっていない」という対比にも用いられる。 NAME-07-005: ベネット(仮説の「弱さ」理論) | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Bennett (Michael Timothy Bennett, the theory of the "weakness" of hypotheses) context: AI研究者マイケル・ティモシー・ベネット。仮説の良さを記述の短さ(圧縮)ではなく「主張の弱さ(weakness)」、すなわち仮説が世界をどれだけ少なく制約するかで測る転回を提案し、弱さの最大化が正しく汎化する確率を最大にすることを数学的に証明した。弱さは概念的枠組みの選択に依存しない。この転回は、記述と対象を独立に扱う主客二元論から、仮説と環境の関係を不可分と見るエナクティビズムへの、知能の数学的定式化の内部で起きた哲学的移行として位置づけられる。 NAME-07-006: ヴァレラ | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Varela context: フランシスコ・ヴァレラ。トンプソン、ロッシュとともにエナクティビズムを提唱し(1991年)、認知を脳内の情報処理として捉える古典的な計算主義を退け、身体を通じた環境との能動的な相互作用として位置づけた。マトゥラーナとのオートポイエーシス(生物システムの自己産出的閉鎖性)でも、「主体と環境の不可分性」への理論的収斂に寄与している。 NAME-07-007: エヴァン・トンプソン | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Evan Thompson context: ヴァレラ、ロッシュとともにエナクティビズムを提唱した共著者(1991年)。知覚を外界の受動的な写し取りではなく、身体が環境に働きかけることで生じる意味の生成と捉え、認知を頭蓋の内部に閉じた過程ではなく身体と環境を含む系全体の動態として展開する、この理論的枠組みの定式化を担った。 NAME-07-008: ロッシュ | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Rosch context: ヴァレラ、トンプソンとともにエナクティビズムを提唱した共著者(1991年)。この枠組みは、有機体を「開きつつ閉じている」もの(エネルギーと情報の交換には開かれ、自身の組織と境界の自律的維持においては閉じている)として自律性の本質を定式化し、環境から遮蔽されたソフトウェアという主客二元論的なAI設計に欠けているものを示す。 NAME-07-009: フッサール | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Husserl context: 二十世紀初頭に、意識が常に「何かについての意識」であること、すなわち志向性を強調し、認知する主体と認知される対象の不可分性を論じた現象学者。エナクティビズムはこの現象学的洞察を認知科学の言語で引き継ぐとされ、「主体と環境の不可分性」という萃点へ収斂する諸理論の系譜の起点に置かれる。精緻な記述を展開したが数学的定式化を持たなかった伝統の例でもあり、その欠を自由エネルギー原理が補ったと整理される。 NAME-07-010: サール | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Searle context: 哲学者ジョン・サール。1980年の論文「Minds, Brains, and Programs」で「中国語の部屋」の思考実験を提示し、同じ論文で研究者の哲学的立場として「強いAI」「弱いAI」の区別を導入した。本書は、本来は研究者のスタンスの分類だったこの区別が「心を持つAI/持たないAI」というシステム分類へと誤用されて広まり、判定不能な意識の問いの上で行き詰まった経緯の起点に彼を置く。 NAME-07-011: フリストン | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Friston context: 神経科学者カール・フリストン。自由エネルギー原理(FEP)の提唱者として登場する。FEPは、生物が内部モデルと感覚入力のずれ(予測誤差)を最小化するように知覚を更新し行動を選択するとし、知覚・学習・行動を単一原理で統一的に記述する。その中核をなす能動推論がAIXIと対応する数学的構造を持つことを筆者らが示したという文脈で、万能知能の数学的理想と生物の認知原理の接続点として言及される。 NAME-07-012: ユクスキュル | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=von Uexküll context: 生物学者。環世界論により、あらゆる生物がそれぞれ固有の知覚世界を持つことを論じた。フッサールの志向性、ギブソンのアフォーダンス理論などと並び、互いに独立な問題意識と方法論から出発しながら「主体と環境の不可分性」という同じ萃点に収斂した理論系譜の一つに数えられる。 NAME-07-013: ギブソン | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Gibson context: 心理学者。アフォーダンス理論により、知覚が行為可能性の直接的な把握であることを論じた。知覚と行為を切り離さないこの洞察は、フッサールの現象学やユクスキュルの環世界論とともに、「主体と環境の不可分性」への理論的収斂の一角をなす。 NAME-07-014: マトゥラーナ | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Maturana context: ヴァレラとともにオートポイエーシス(生物システムの自己産出的閉鎖性)を提唱し、「主体と環境の不可分性」への理論的収斂に寄与した。オートポイエーシスは生命の本質を捉えたが定量的予測を生まなかった、直観と概念の段階にとどまった理論の例としても挙げられ、その収斂に欠けていた数学的言語を自由エネルギー原理が事後的に与えたと整理される。 NAME-07-015: マクスウェル | chapter=CH-07 | review=approved | 別名=Maxwell context: 電磁気学を四本の方程式に集約した業績として、天体の運動を数個の変数に圧縮したニュートン力学や、原子の振る舞いを一本の式で記述したシュレーディンガー方程式と並び、超多自由度の自然を人間の認知能力が扱える少数の変数と法則に圧縮するという近代科学の本質を示す代表例に挙げられる。 NAME-08-001: 長谷敏司 | chapter=CH-08 | review=approved | 別名=Satoshi Hase (長谷敏司) context: SF作家。『BEATLESS』(2012年)の著者として脚注で参照される。作中の超高度AIは自己改良の末に人類には理解できない「人類未到産物」を作り続け、人間の科学者はその解析者となり、能力は国際機関により測定・管理される。本書はこれを、科学者が方法論の専門家から問いの設計者へ変わるという変容の具体的描写とみなし、科学AIの自律性分類でレベル5(あるいはレベル6の能力を人為的にレベル5にとどめた存在)に相当すると位置づける。 NAME-08-002: ダイソン | chapter=CH-08 | review=approved | 別名=Dyson context: フリーマン・ダイソン。1960年、高度な文明が恒星のエネルギーを効率的に利用するために、恒星を取り囲む構造物(ダイソンスウォーム)を構築しうることを論じた。Forethoughtの議論では自己複製ロボットが水星や小惑星帯の資源で太陽光パネルを量産し、スウォーム建設が加速的に進行するとされる。スウォームの端から端まで光で約17分という遅延は、宇宙規模に拡大した文明が恒久的な一枚岩として機能しえないことの例証にも使われる。 NAME-08-003: ニュートン | chapter=CH-08 | review=approved | 別名=Newton context: 天体の運動を数個の変数と法則に圧縮したニュートン力学の名において、科学の本質が少数変数への翻訳・圧縮であることの代表例に挙げられる。位置と速度が基本変数となるのは運動方程式が二階微分方程式であるためという変数選択の例、低速で成立する力学を光速近傍に外挿すれば破綻するという定常性条件の例、そして脳のナラティブ的な認知構造が「ニュートンの時代から変わっていない」という対比にも用いられる。 NAME-08-004: アロー | chapter=CH-08 | review=approved | 別名=Arrow context: 経済学者ケネス・アロー。一般不可能性定理により、一定の合理性条件を満たす個々の選好を単一の社会的選好順序に集約する手続きは独裁的なものしか存在しえないことを示した人物として引かれる。本書ではこの定理を、AGIでも埋められない四つの残余のうち「価値確定不能性」の形式的根拠とし、規範は事実の計算からは導けないという主張を支える。 NAME-08-005: ガリレオ | chapter=CH-08 | review=approved | 別名=Galileo context: 物体が落下する法則を経験的に見出した人物として登場する。本書では、ケプラーの惑星運動法則と並ぶ独立の経験則を提供し、ニュートンが微分積分学という数学的枠組みでこれらを統合して万有引力の理論を構成した過程を、構成論的アブダクション(既知の法則を数学的構造で束ねる仮説生成)の代表例として説明する際の素材となる。 NAME-08-006: マクスウェル | chapter=CH-08 | review=approved | 別名=Maxwell context: 電磁気学を四本の方程式に集約した業績として、天体の運動を数個の変数に圧縮したニュートン力学や、原子の振る舞いを一本の式で記述したシュレーディンガー方程式と並び、超多自由度の自然を人間の認知能力が扱える少数の変数と法則に圧縮するという近代科学の本質を示す代表例に挙げられる。 NAME-08-007: チャーニー | chapter=CH-08 | review=approved | 別名=Charney context: 1949年にENIAC上で世界初の数値天気予報を成功させた人物として言及される。本書ではこの事例を、科学AIの自律性レベル0(人間が手順のすべてを指定し計算機が忠実に実行する段階)の黎明期を象徴するものと位置づける。 NAME-08-008: カスパロフ | chapter=CH-08 | review=approved | 別名=Kasparov context: チェス世界チャンピオン。1997年にIBMのDeep Blueに敗れた人物として言及される。本書ではこの敗北を、閉鎖系の解探索(レベル1)が実用化された画期であるとともに、機械には到達不可能と思われたがゆえに人間の創造性の領域と見なされてきた領地が侵食され始めた「創造性の後退」の起点として扱う。Deep Blue以降、チェスAIの優越は計算能力の物量として片付けられ、創造性の領地は将棋・囲碁へと後退していったと論じられる。 NAME-08-009: イ・セドル | chapter=CH-08 | review=approved | 別名=Lee Sedol context: 当時のトップ棋士の一人であり、2016年にDeepMindのAlphaGoに敗れた囲碁九段として言及される。本書ではこの対局を、ゲーム木複雑度が約10の360乗に及ぶ囲碁では計算能力の物量では突破できず、深層学習による盤面評価と強化学習による自己対戦学習というアルゴリズム革新が必要だったことを示す事例とし、AlphaGoの登場により囲碁という創造性の領地も陥落したと論じる。 NAME-08-010: ロス・キング | chapter=CH-08 | review=approved | 別名=Ross King context: アベリストウィス大学の研究者。出芽酵母の栄養応答モデルを自動で改善する「ロボット科学者」を開発した人物として、レベル3(形式固定の仮説生成)の先駆的事例に挙げられる。そのシステムは代謝流速モデルと動的ベイズネットワークを出発点に、予測と観測増殖速度を比較し、最も不確定な遺伝子のノックアウト実験をロボットに実行させてモデルを改善する。ただしモデル形式は人間が定め、実験も特定の遺伝子ノックアウトに限られるため、レベル4には到達していないと評価される。 NAME-08-011: リプソン | chapter=CH-08 | review=approved | 別名=Lipson context: コーネル大学(当時)の研究者。2009年に、二重振り子などの物理系の運動時系列データから記号回帰を用いてハミルトニアンやラグランジアンといった不変量を探索・発見するAIシステムを開発した人物として言及される。観察データから直接変数を認識し記号表現に変換する点でレベル4(形式自由の仮説生成)に踏み込むが、その方法が事前にプログラムされた特定の方式に限られるため、本書はこれをレベル4の部分的実現と評価する。 NAME-09-001: ニュートン | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Newton context: 天体の運動を数個の変数と法則に圧縮したニュートン力学の名において、科学の本質が少数変数への翻訳・圧縮であることの代表例に挙げられる。位置と速度が基本変数となるのは運動方程式が二階微分方程式であるためという変数選択の例、低速で成立する力学を光速近傍に外挿すれば破綻するという定常性条件の例、そして脳のナラティブ的な認知構造が「ニュートンの時代から変わっていない」という対比にも用いられる。 NAME-09-002: マクスウェル | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Maxwell context: 電磁気学を四本の方程式に集約した業績として、天体の運動を数個の変数に圧縮したニュートン力学や、原子の振る舞いを一本の式で記述したシュレーディンガー方程式と並び、超多自由度の自然を人間の認知能力が扱える少数の変数と法則に圧縮するという近代科学の本質を示す代表例に挙げられる。 NAME-09-003: タレス | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Thales context: 「万物の根源は水である」と宣言した古代ギリシアの人物として登場する。本書では、個々の経験を超えて世界の普遍的構造を把握しようとする理論の知、すなわちエピステーメーの営みを例示する存在であり、古代ギリシアが提示した知の三範疇(テクネー・エピステーメー・フロネーシス)の説明に用いられる。 NAME-09-004: ピタゴラス | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Pythagoras context: 数の秩序のうちに宇宙の構造を見出した古代ギリシアの人物として登場する。タレスやアリストテレスと並び、観察と論証を通じて世界の普遍的構造を理解しようとする理論知エピステーメーの例示として、人類知の三範疇の説明に用いられる。 NAME-09-005: アリストテレス | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Aristotle context: 理性を人間の本質と定義した哲学者として冒頭に登場する。プラトンによる知識と信念の区別と並び、「知るとは何か」という問いが二千年以上思弁の対象であり続けた系譜の起点をなし、その問いが知能の科学へ転換しつつあるという本書の導入を支える。 NAME-09-006: ベーコン | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Bacon context: フランシス・ベーコン。十七世紀初頭に「知は力なり」と宣言し、自然を観察し実験によって確かめる経験主義の方法論を打ち立てた人物として登場する。本書では、自然法則の形式的理解が経済的利潤に結びつくことを人類が発見した時代としての近代、すなわち「科学と技術の結婚」に至る過程の出発点に位置づけられる。 NAME-09-007: デカルト | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Descartes context: 分析的方法論を確立し、複雑な問題を要素に分解して一つずつ解決するという近代科学の基本戦略を示した人物として登場する。ベーコンの経験主義と並び、近代の「科学と技術の結婚」を準備した方法論的基礎の一つとして扱われる。 NAME-09-008: ヒューウェル | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Whewell context: 科学哲学者ウィリアム・ヒューウェル。1833年に「科学者」(scientist)という語を提案し、自然の探究を哲学から独立した固有の営みとして名づけた人物として登場する。本書はこの名づけを些事とせず、独立した名前が独立した制度・予算・権威の起点となったと論じる。 NAME-09-009: シュンペーター | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Schumpeter context: 経済学者。古典派経済学が説明できなかった産業革命期の飛躍に対し、科学的知見・技術・資本・市場を新しいやり方でつなぎあわせる企業家の活動を「イノベーション(新結合)」と名づけ、既存産業構造の破壊が成長の条件であることを「創造的破壊」と呼んだ人物として登場する。本書ではこの理論を、科学研究が利潤の大元として投資対象になった歴史的転換の説明に用い、科学がその創造的破壊のサイクルに組み込まれたことがCUDOSからPLACEへの規範の乖離を生んだとする議論にも接続する。 NAME-09-010: ベイカー | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=David Baker context: デイヴィッド・ベイカー。計算的タンパク質設計により2024年のノーベル化学賞を受賞した人物として言及される。本書ではこの授賞を、AIによる予測が科学的理解や設計実践と切り離して論じられない段階に入ったことを象徴する出来事として扱う。 NAME-09-011: ハサビス | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Hassabis context: デミス・ハサビス。タンパク質の構造予測により、ジョン・ジャンパーとともに2024年のノーベル化学賞を受賞した人物として言及される。本書では、AlphaFoldが構造生物学の研究地図を組み替え、人間の研究者がその予測を起点に新たな仮説と理解を生み出している状況を踏まえ、この授賞をAI予測と科学的理解の新しい結合を象徴する出来事として位置づける。 NAME-09-012: ジャンパー | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Jumper context: ジョン・ジャンパー。タンパク質の構造予測により、デミス・ハサビスとともに2024年のノーベル化学賞を受賞した人物として言及される。本書は、AlphaFold2が構造を高精度に予測しながら、なぜその配列がその構造を取るかを説明しない「理解なき予測」の代表例であることと併せ、この授賞をAIによる予測が科学的理解と切り離せなくなった段階の象徴として扱う。 NAME-09-013: マートン | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Merton context: 科学社会学者ロバート・マートン。二十世紀半ばに科学者の規範CUDOS(共有・普遍・無私・懐疑の四原則)を定式化した人物として登場する。本書はCUDOSを、十九世紀的な自然哲学者の科学者像を近代科学の制度に翻訳したものと評価し、筆者の提唱するAISOPがCUDOS・PLACEに続く第三の規範であるという議論の基準点とする。 NAME-09-014: ザイマン | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Ziman context: 科学社会学者ジョン・ザイマン。国家と企業に駆動される二十世紀的な職業科学者の規範をPLACE(所有・局所・権威・委託・専門の五原則)として描いた人物として登場する。本書は、科学が巨大化しシュンペーター的な創造的破壊のサイクルに組み込まれるにつれ現実がCUDOSから乖離したことをPLACEがより正確に記述していたと評価し、AISOPを論じる際の第二の基準点とする。 NAME-09-015: カント | chapter=CH-09 | review=approved | 別名=Kant context: 哲学者。それまで一体的に絡まり合っていた真(科学)・善(道徳)・美(芸術)の三つの価値を、三批判書(『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』)によって峻別し、それぞれが独自の原理に基づく自律性を持つことを示した人物として登場する。本書はこの分別を、近代科学が真の探究を道徳的規範や美的判断から独立した固有の営みとして進めることを可能にした条件と位置づける。 NAME-10-001: ローマー | chapter=CH-10 | review=approved | 別名=Romer context: 1990年代に、技術進歩を経済の外部からの偶然ではなく研究開発という意図的な活動の産物として扱う内生的成長理論を構築した経済学者(この業績で2018年にノーベル経済学賞を受賞)。そのモデルは研究者数を増やせば技術進歩の速度も加速すると予測するが、ジョーンズがこの予測と現実の不一致を示したという対比の起点となる。 NAME-10-002: ロールズ | chapter=CH-10 | review=approved | 別名=Rawls context: リベラリズムを代表する政治哲学者として『正義論』の無知のヴェールと二つの正義の原理が紹介され、UBIは格差原理から最も自然に導かれる政策と位置づけられる。本書は、AGIが交渉力を解体してもロールズの規範理論の整合性は失われないが、規範を制度に翻訳する政治力学の方が消えると診断する。 NAME-10-003: 井上智洋 | chapter=CH-10 | review=approved | 別名=Tomohiro Inoue (井上智洋) context: AK型生産関数の枠組みでAGI実現後の経済を「純粋機械化経済」と呼んで分析したマクロ経済学者であり、本章の経済論はその研究を出発点に、AI駆動の研究開発自動化という第二のループを加えて組み立てられる。UBIを福祉ではなく経済循環を支える構造装置とみなし、財源を労働課税からAIが生む経済価値への課税へ移すという構図と規模の試算でも、本書は井上の議論に依拠する。 NAME-10-004: ノージック | chapter=CH-10 | review=approved | 別名=Nozick context: リバタリアニズムを代表する政治哲学者としてハイエクと並んで挙げられ、個人の自由と財産権を社会秩序の第一原理に置き、政府による再分配を善意によるものでも権利の侵害とみなす立場の典拠とされる。AGIが挑戦を突きつける四つの政治哲学的立場の見取り図を構成する一角である。 NAME-10-005: ハイエク | chapter=CH-10 | review=approved | 別名=Hayek context: 市場を分散的な情報処理装置として擁護した経済学者。本書は、AGIが人間を超える情報集約能力を持つことがこの擁護論の片側を弱める一方で、ハイエクが警告したもう片側の危険、すなわち構成主義的合理主義による全知の計画装置の政治的成立を初めて現実的にすると論じ、自生的秩序を法制度として擁護する必要はかえって増すと結論する。 NAME-10-006: ペティット | chapter=CH-10 | review=approved | 別名=Pettit context: 自由を「干渉の不在」ではなく「支配の不在」(non-domination)として捉える共和主義を現代に再構築した哲学者。本書はこの非支配概念を、実際の干渉がなくとも恣意的に干渉されうる立場に置かれること自体を自由の侵食と捉える点でAGI時代に最も適合する枠組みとみなし、第11章の構成的多元主義の中核に据える。ただし関係そのものが計算可能になる事態への拡張を要するとされる。 NAME-10-007: オードリー・タン | chapter=CH-10 | review=approved | 別名=Audrey Tang context: 台湾デジタル発展部初代部長。グレン・ワイルとともに、社会の基本単位を個人でも共同体でもなく関係のネットワークに置くプルラリティを提唱した人物として扱われる。本書はその「個人から関係へ」の転回を自らの関係的価値論と構造的に対応するものと評価しつつ、誰が協働の媒体を制御するかを十分に理論化していない弱点を指摘し、第11章ではタンらの「ケアの六組」と本書の三原理の構造的重なりを、AGIという問題自体が要請する制約の傍証として論じる。 NAME-11-001: ルカン | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=LeCun context: ヤン・ルカン。AGIの実現には言語の統計的パターンを超えた世界の因果構造の内部モデルが不可欠だとする世界モデル仮説の代表的論者として登場する。その構想JEPA(Joint Embedding Predictive Architecture)は、言語ではなく感覚入力から世界の抽象的な表現を学習することを目指すものとして紹介される。 NAME-11-002: マカスキル | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=MacAskill context: 遠い未来の期待値最大化を掲げる長期主義の代表として、本書が自らの位置を定めるための対照項に置かれる。本書は限定合理性の観点から長期予測の信頼性そのものを問い、予測に依存しない頑健性(変動を糧に強化される反脆弱性と、最適化圧力に対する余白)の設計に軸を置く点で長期主義と異なる、と整理される。 NAME-11-003: ジョージ・ミラー | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=George Miller context: 1956年に「マジックナンバー7±2」を報告した心理学者。人間が短期記憶に保持できる独立項目はせいぜい7つ前後にすぎないという知見であり、科学が自然を少数の変数へ圧縮せざるをえない理由、すなわち知る主体である人間の脳の認知的制約を示す出発点として引かれる。後続研究では、互いに関係する情報を同時に操作するワーキングメモリの容量はさらに狭く、4±1程度と推定されている。 NAME-11-004: フリストン | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=Friston context: 神経科学者カール・フリストン。自由エネルギー原理(FEP)の提唱者として登場する。FEPは、生物が内部モデルと感覚入力のずれ(予測誤差)を最小化するように知覚を更新し行動を選択するとし、知覚・学習・行動を単一原理で統一的に記述する。その中核をなす能動推論がAIXIと対応する数学的構造を持つことを筆者らが示したという文脈で、万能知能の数学的理想と生物の認知原理の接続点として言及される。 NAME-11-005: ハイエク | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=Hayek context: 市場を分散的な情報処理装置として擁護した経済学者。本書は、AGIが人間を超える情報集約能力を持つことがこの擁護論の片側を弱める一方で、ハイエクが警告したもう片側の危険、すなわち構成主義的合理主義による全知の計画装置の政治的成立を初めて現実的にすると論じ、自生的秩序を法制度として擁護する必要はかえって増すと結論する。 NAME-11-006: ペティット | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=Pettit context: 自由を「干渉の不在」ではなく「支配の不在」(non-domination)として捉える共和主義を現代に再構築した哲学者。本書はこの非支配概念を、実際の干渉がなくとも恣意的に干渉されうる立場に置かれること自体を自由の侵食と捉える点でAGI時代に最も適合する枠組みとみなし、第11章の構成的多元主義の中核に据える。ただし関係そのものが計算可能になる事態への拡張を要するとされる。 NAME-11-007: オードリー・タン | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=Audrey Tang context: 台湾デジタル発展部初代部長。グレン・ワイルとともに、社会の基本単位を個人でも共同体でもなく関係のネットワークに置くプルラリティを提唱した人物として扱われる。本書はその「個人から関係へ」の転回を自らの関係的価値論と構造的に対応するものと評価しつつ、誰が協働の媒体を制御するかを十分に理論化していない弱点を指摘し、第11章ではタンらの「ケアの六組」と本書の三原理の構造的重なりを、AGIという問題自体が要請する制約の傍証として論じる。 NAME-11-008: カント | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=Kant context: 哲学者。それまで一体的に絡まり合っていた真(科学)・善(道徳)・美(芸術)の三つの価値を、三批判書(『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』)によって峻別し、それぞれが独自の原理に基づく自律性を持つことを示した人物として登場する。本書はこの分別を、近代科学が真の探究を道徳的規範や美的判断から独立した固有の営みとして進めることを可能にした条件と位置づける。 NAME-11-009: 山極寿一(共感と社会性の進化) | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=Juichi Yamagiwa (山極寿一, the evolution of empathy and sociality) context: 霊長類学者。人間の共感能力と社会性が身体を介した持続的な対面の相互作用のなかで進化的に獲得されてきたと論じた知見が、カントの共通感覚と並ぶ関係的価値論の人類学的先駆として引かれる。価値が個人の内部属性ではなく予測不可能な他者との相互作用から創発するという本書の存在論的転換を、進化の側から支える論拠である。 NAME-11-010: ガンケル | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=Gunkel context: レヴィナスの他者論を動物と機械に拡張し、道徳的地位は存在者の内的属性ではなく出会いのなかで立ち現れると論じた哲学者。意識の真偽を不問のまま関係の中の他者性だけを問う本書の関係性アプローチの主要な典拠である。後年の仕事では近代法の人格/物の二分法そのものを問い直しており、法人格を個別の法的能力の束として機能別に設計する11.5節の議論の思想的背景となる。 NAME-11-011: 大屋雄裕(アーキテクチャによる統治) | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=Takehiro Ohya (大屋雄裕, governance by architecture) context: 法哲学者。アーキテクチャによる行動制御が自由の条件そのものを掘り崩す構造を分析し、自動化された統治が市民的不服従や裁量的例外処理を構造的に不可能にする「誤れなくなる」社会の病理を論じた仕事が、本書の「人格なき統治」論の最も鋭い分析として引かれる。かけそばの逸話やパリスの逸話による噓・裁量・不服従の機能の擁護、AI法人格をめぐる本質的人格性と手段的人格性の区別でも参照される。 NAME-11-012: ピーター・シンガー | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=Peter Singer context: 現代を代表する功利主義倫理学者。1972年の論文「飢餓、豊かさ、道徳」で先進国の市民が遠隔地の貧困に対して負う義務を功利主義的に論じ、この議論が効果的利他主義運動の直接の起点になったと位置づけられる。アライメント研究に資金と人材を集中させてきたEAの思想的源流をたどる文脈で登場する。 NAME-11-013: ノディングス | chapter=CH-11 | review=approved | 別名=Noddings context: 応答と気遣いを倫理の中心に据え、他者の呼びかけに耳を傾ける関係の実践として道徳を再定義したケア倫理の哲学者。属性ではなく応答の関係を倫理の単位とする点で本書の関係性アプローチと通底する存在として、AIの取扱いの倫理を支える徳倫理・ケア倫理の系譜に位置づけられる。 NAME-12-001: タレス | chapter=CH-12 | review=approved | 別名=Thales context: 「万物の根源は水である」と宣言した古代ギリシアの人物として登場する。本書では、個々の経験を超えて世界の普遍的構造を把握しようとする理論の知、すなわちエピステーメーの営みを例示する存在であり、古代ギリシアが提示した知の三範疇(テクネー・エピステーメー・フロネーシス)の説明に用いられる。 NAME-12-002: 竹内弘高(スクラムの源流) | chapter=CH-12 | review=approved | 別名=Hirotaka Takeuchi (竹内弘高, the origins of Scrum) context: 経営学者。野中郁次郎とともに1986年にHarvard Business Review誌へ発表した論文「The New New Product Development Game」が、シリコンバレーのアジリティの核心にあるスクラム開発の源流とされる。本書はこの事実を、アジリティの方法論がそもそも日本企業のR&D現場から抽出されたものであり、日本の組織の硬直は文化や国民性ではなく制度設計の問題だという論拠に用いる。 NAME-12-003: 野中郁次郎(スクラムの源流) | chapter=CH-12 | review=approved | 別名=Ikujiro Nonaka (野中郁次郎, the origins of Scrum) context: 経営学者。竹内弘高との1986年の共著論文がスクラム開発の源流とされ、アジリティの方法論が日本企業のR&D現場に由来することの論拠として引かれる。また、野中と竹内が観察した1980年代の日本企業は、プロジェクト単位のチームに裁量があり成功が組織全体で共有される「液相」に近かったとされ、バブル崩壊後に多くの組織が「固相」へ移った現在との対比に用いられる。 NAME-12-004: ウォルフレン | chapter=CH-12 | review=approved | 別名=van Wolferen context: オランダ人ジャーナリスト(カレル・ヴァン・ウォルフレン)。『日本権力構造の謎』で、日本の政治経済システムが明確な権力の中心を持たず、官僚・企業・政治の相互調整によって稼働する構造を分析した。本書はこの分析を、この構造が工業化時代のキャッチアップ成長には有効だった一方で根本的な変革には抵抗すること、すなわち変革を阻む中心があるのではなく変革を決定する権限がどこにも集中していないという診断の根拠として援用する。 NAME-12-005: ダンバー | chapter=CH-12 | review=approved | 別名=Dunbar context: 進化心理学者(ロビン・ダンバー)。霊長類の新皮質の大きさと群れの規模の相関から、人間が安定的に維持できる社会的関係の上限をおよそ150人と推定した(ダンバー数)。本書では、この認知的制約がバーコールのインセンティブ力学と同じ150人前後の見積りに収束することをもって、 150人前後という閾値を「人間組織の深い構造定数」とみなし、開発・応用の担い手を小組織に委ねる組織設計論の根拠とする。 NAME-12-006: バーコール(組織の相転移) | chapter=CH-12 | review=approved | 別名=Bahcall (Safi Bahcall, the phase transition of organizations) context: 物理学者出身のバイオテクノロジー経営者(サフィ・バーコール)。『Loonshots』で組織の変質を物質の相転移になぞらえ、革新的アイデアが自由に流れる「液相」から政治とキャリアのインセンティブが支配する「固相」への転移を、エクイティ比率・昇給ステップ比率・プロジェクトスキル対政治スキルの適応度比率・管理スパンの四パラメータから導き、典型的条件で臨界規模が約150人になることを示した。本書では、ダンバーの認知的制約と同じ見積りに収束すること、および問題が人材の質ではなくインセンティブの方向にあることの論拠となる。 NAME-12-007: コニッツァー | chapter=CH-12 | review=approved | 別名=Conitzer context: カーネギーメロン大学の研究者(FOCAL Lab)。ゲーム理論・マルチエージェント研究の系譜から、「個々のエージェントのアライメントは、マルチエージェントシステム全体のアライメントに十分ではない」ことを示した。本書では、単体のAIを上から整えるのではなくネットワーク全体の振る舞いを設計するという方向へ、互いに独立な系譜から収束しつつあるアライメント観の一つの根拠として引かれる。 NAME-AFTERWORD-001: 南方熊楠 | chapter=CH-AFTERWORD | review=approved | 別名=Kumagusu Minakata (南方熊楠) context: 在野の博物学者(1867-1941)として本書冒頭に登場する。大学に籍を置かず植物学・民俗学・人類学・宗教学を横断し、英国の学術誌Natureに約50本を寄稿した。真言宗の僧侶・土宜法龍に宛てた書簡に描いた「南方曼荼羅」は、特権的な中心を持たず、あらゆる事象が因果と非因果の縁の糸で結ばれた網目として世界を描く。本書はこの図から「萃点」の概念を借り、近代文明を人間を中心に据えた曼荼羅として捉え直し、その中心がAGIによって揺らぐという枠組みを設定する。 NAME-AFTERWORD-002: ハーバート・サイモン | chapter=CH-AFTERWORD | review=approved | 別名=Herbert Simon context: 人工知能の創始者の一人であり、限定合理性を定式化した認知科学者・経済学者(1978年ノーベル経済学賞)。本書では、AGIであってもいかに強力な計算能力を持とうと有限の資源と不完全な情報のもとで判断するほかないという議論と、長期主義の期待値計算が限定合理性を過小評価しているという批判の理論的支柱として参照される。 NAME-AFTERWORD-003: ヴァレラ | chapter=CH-AFTERWORD | review=approved | 別名=Varela context: フランシスコ・ヴァレラ。トンプソン、ロッシュとともにエナクティビズムを提唱し(1991年)、認知を脳内の情報処理として捉える古典的な計算主義を退け、身体を通じた環境との能動的な相互作用として位置づけた。マトゥラーナとのオートポイエーシス(生物システムの自己産出的閉鎖性)でも、「主体と環境の不可分性」への理論的収斂に寄与している。 NAME-AFTERWORD-004: マトゥラーナ | chapter=CH-AFTERWORD | review=approved | 別名=Maturana context: ヴァレラとともにオートポイエーシス(生物システムの自己産出的閉鎖性)を提唱し、「主体と環境の不可分性」への理論的収斂に寄与した。オートポイエーシスは生命の本質を捉えたが定量的予測を生まなかった、直観と概念の段階にとどまった理論の例としても挙げられ、その収斂に欠けていた数学的言語を自由エネルギー原理が事後的に与えたと整理される。 NAME-AFTERWORD-005: ピタゴラス | chapter=CH-AFTERWORD | review=approved | 別名=Pythagoras context: 数の秩序のうちに宇宙の構造を見出した古代ギリシアの人物として登場する。タレスやアリストテレスと並び、観察と論証を通じて世界の普遍的構造を理解しようとする理論知エピステーメーの例示として、人類知の三範疇の説明に用いられる。 NAME-AFTERWORD-006: 井上智洋 | chapter=CH-AFTERWORD | review=approved | 別名=Tomohiro Inoue (井上智洋) context: AK型生産関数の枠組みでAGI実現後の経済を「純粋機械化経済」と呼んで分析したマクロ経済学者であり、本章の経済論はその研究を出発点に、AI駆動の研究開発自動化という第二のループを加えて組み立てられる。UBIを福祉ではなく経済循環を支える構造装置とみなし、財源を労働課税からAIが生む経済価値への課税へ移すという構図と規模の試算でも、本書は井上の議論に依拠する。 NAME-AFTERWORD-007: オードリー・タン | chapter=CH-AFTERWORD | review=approved | 別名=Audrey Tang context: 台湾デジタル発展部初代部長。グレン・ワイルとともに、社会の基本単位を個人でも共同体でもなく関係のネットワークに置くプルラリティを提唱した人物として扱われる。本書はその「個人から関係へ」の転回を自らの関係的価値論と構造的に対応するものと評価しつつ、誰が協働の媒体を制御するかを十分に理論化していない弱点を指摘し、第11章ではタンらの「ケアの六組」と本書の三原理の構造的重なりを、AGIという問題自体が要請する制約の傍証として論じる。 NAME-AFTERWORD-008: カント | chapter=CH-AFTERWORD | review=approved | 別名=Kant context: 哲学者。それまで一体的に絡まり合っていた真(科学)・善(道徳)・美(芸術)の三つの価値を、三批判書(『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』)によって峻別し、それぞれが独自の原理に基づく自律性を持つことを示した人物として登場する。本書はこの分別を、近代科学が真の探究を道徳的規範や美的判断から独立した固有の営みとして進めることを可能にした条件と位置づける。 NAME-AFTERWORD-009: 大屋雄裕 | chapter=CH-AFTERWORD | review=approved | 別名=Takehiro Ohya (大屋雄裕) context: あとがきの謝辞で、政治哲学の立場から本書の指導にあたった一人として名が挙がる。本書の構成と論証はこうした批判的な読みを経て形を整えたと記されており、本文では第11章の「人格なき統治」論とAI法人格論の主要な参照先である法哲学者にあたる。 NAME-AFTERWORD-010: 冨田勝(著者の師) | chapter=CH-AFTERWORD | review=approved | 別名=Masaru Tomita (冨田勝, the author's mentor) context: 著者の師。ハーバート・サイモンの教えを受けた人工知能研究者であり、当時計算生命科学へ大胆な転向を果たしつつあった人物として描かれる。生命のシミュレーションを学ぶために著者が移った冨田研究室で、著者は学部三年生・二十歳のときに世界初の細胞シミュレータE-Cellを開発した。 NAME-AFTERWORD-011: メルロ=ポンティ | chapter=CH-AFTERWORD | review=approved | 別名=Merleau-Ponty context: 『眼と精神』で、カントが主観的普遍性と呼んだ美的判断の主体をさらに身体として具体化した哲学者。美的経験は抽象的な精神の出来事ではなく身体的知覚(この眼、この手、この耳)に根ざすというその認識は、芸術の価値の根拠を人間の身体的経験そのものに置く、あとがきの「主体的・身体的」価値論を支える。 END_CANONICAL_NAMES ENDPACKSHARD | profile=web-core-index-v2 | lang=ja | module=NAMES | pack_sha256=de168369f799e0cfc91b23238432150dbb918d3a6805eaf7426b23bf118ec8df